大手監査法人・国税審判官を経て独立
11年間の監査業務を経て国税審判官へ
論文式試験合格後、私は、あずさ監査法人大阪事務所へ入所しました。スタッフ・シニア時代は、電気通信業・ソフトウェア業、小売業、放送業、建設業、不動産業、リート投資法人、鉄道業、学校法人など幅広い業種の監査を経験しました。また、会計士補時代は、会計士補会(現日本公認会計士協会準会員会)幹事、会計士登録をしてからは実務補習所の委員(監査・リスクアプローチの講師を7年間担当)など、近畿会の活動にも積極的に参加していました。
監査法人でマネージャーになり、近畿会の幹事をしていた頃に「中堅若手会計士委員会」の副委員長を担当。公認会計士の活動領域の拡大をテーマにしていたところ、私自身は監査法人での勤務経験しかなく、そのことに引け目を感じていました。もっとも、いきなり独立する勇気はなく、何か特徴のある仕事をしてみたいと漠然と思っていました。
関西には、大阪国税局管内において税理士登録をした50歳以下の公認会計士が入会資格を持つ「研友会」という歴史ある団体があるのですが、税理士登録前でも参加できる研修やイベントもあり、何度か「研友会」に顔を出していたところ、「国税審判官」の募集案内を目にしました。
国税審判官(特定任期付職員)は、公認会計士、弁護士、税理士、大学教授などが応募要件であり、国税不服審判所には特定任期付職員の他に、裁判官や検察官、国税組織からの出向者がいることを知りました。当時は監査の品質が問われていたこともあり、国税組織の調査方法にも興味がありました。そして何よりも「他の専門家と協働して仕事をすること」は滅多に体験できないと思い、応募を決意しました。
一般的にはあまり知られていないことですが、納税者は更正処分などの税務署長等が行う処分について、その取消を求めて、不服申立てをすることができます。国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対して、裁決を行う機関が国税不服審判所です。国税不服審判所は、審査請求人と税務署長等の双方の主張を聴き、必要があれば自ら調査を行って、公正な第三者的立場で裁決を行います。そして、この裁決は、行政内部の最終判断であるため、税務署長等はこれに不服があっても訴訟を提起することはできません。
調査は懐疑心を持ちつつ「聞くこと」「読むこと」が基本ですので、監査と類似する点が多かったです。また、原則として、3人の合議体で調査・審理を行いますので、チームプレイという点でも監査と似ていました。他方、監査チームと少し違うのは、審判官は、各人が、証拠の全てに目を通し、成果物の書面にも一言一句こだわるところです。監査の場合、一人で、担当クライアントの全科目の全資料をチェックし、全調書を作成ないしレビューすることは滅多にないと思います。非効率な面があるかもしれませんが、弁護士・税理士・国税専門官などの専門家と、役割分担した分業ではなく、お互いに全証拠を検討した上で、より良い成果物に高めていく業務は、とても楽しく、勉強にもなりました。
国税審判官の任期満了後、2019年に独立
国税審判官の任期満了後、2019年に独立開業しました。現在、約10社の顧問をしています。税務メインの顧問もあれば、経営管理メインの顧問もあります。非上場会社の株価算定、管理会計寄りの意思決定支援業務、相続等のスポット業務も行ってきました。審判官経験で得たスキルを期待され、同業者からの相談に応じる業務もしています。
業務の縁は、全て、先輩や知人からの紹介です。ご縁は、学生時代、監査法人時代、会務などの諸活動など様々です。例えば、監査法人時代、「士勇会」という若手公認会計士・弁護士・不動産鑑定士の勉強会に幹事として長く携わってきましたが、今月、そのご縁で、研修講師の依頼がありました。
独立した今となっては、そのような諸活動を通じて得た縁が、業務面でも精神面でも非常にありがたいですが、当時は、単に、せっかく公認会計士になったのだから、そのパスポートで入場できるところで遊んでみたいと思っていただけです。世の中には、懇親会や勉強会などが無数にありますが、公認会計士だからこそ、参加できるところを中心に顔を出していました。国税審判官もその1つでした。
また、個人業務の他、非常勤で、監査実務にも少し関与しています。会計・監査のプロフェッショナルとしての知識をアップデートせざるを得ない環境に身を置きたいからと、職業的懐疑心の感覚を保持しておきたいからです。
「大阪府公衆浴場料金審議会委員」等を務める
公認会計士ということで、公的な委員に推薦していただくこともあります。地方自治体のプロポーザル関係や、珍しいものでは「大阪府公衆浴場料金審議会委員」を務めました。
委員の選任理由として、よくあるのが「手続きの公正・公平性などを確保し」や「公正性・公平性の観点から審査していただく」です。
やはり、期待されているのは、懐疑心を持ちつつ「聞くこと」「読むこと」を基本とした職務であり、単に、会計基準や税法に詳しい人といった役割ではないと実感します。
また、会計の情報提供機能(意思決定支援機能)でなく、利害調整機能も実感しました。
毎朝のルーティンはメルマガ「morning accountant mail」の配信
監査法人時代、同期や後輩に対して個人的な「メルマガ」を配信していました。
独立後にメルマガ配信を再開し、継続しています。ちょうど今月に800号に到達しました。会計や税務に関する新聞記事などを素材にして、基本的に毎朝配信しています。メルマガ配信をルーティンにすることで、毎日新しい情報をインプットするモチベーションにしています。人に話す前に、メールで文字化することで、見落としに気が付くこともよくありまし、思考の整理になっています。
業務関連の雑談を文字にする延長で、いつか会計士として、ラジオ番組でコーナーを持てたらいいなと、夢見ています。ネタ帳的に、例えば、「ドラマ○○に学ぶ監査論」などのレジュメをしたためています(笑)
これは若手会計士の皆さんにお伝えしたいことですが、会計士として「プレイヤー」であり続けるためには、自己研鑽を継続する必要があります。それには、自己研鑽を継続しやすい、継続せざるをえない環境に身を置けばよいと思っています。背伸びをして、少し負荷がかかる業務に手を挙げ続ければよいだけです。失敗したり、周りに迷惑をかけたりすることを心配する方もいらっしゃるとは思います。しかし、監査法人や企業勤めであれば、自分の能力不足やミスにより、業務がうまくいかなかったとしても、個人的に損害賠償責任を負うことは皆無でしょう。独立開業すると、損害賠償責任等も気になり、少しビビることもあります。ノーリスクでチャレンジできる立場を積極的に利用してください。
プロフィール
トップランナー 公認会計士 vol.6
川喜多 由博 Yoshihiro Kawakita
川喜多公認会計士事務所 所長
公認会計士・税理士
2005年神戸大学経営学部卒。
2004年公認会計士試験(旧二次試験)合格後、あずさ監査法人大阪事務所にて監査業務等に従事。
2016年から3年間の国税審判官を経て、2019年に独立開業。
川喜多公認会計士事務所
http://ykawakita-cpa.com
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