好きな場所で、好きなことで
生きていくという選択肢
ゲーム欲しさに偶然踏み入れた簿記の世界から公認会計士へ
中高時代はゲームやアニメといったオタク生活にとても忙しく、特に夜中から明け方までがむしろ自分のメイン時間で、足りない睡眠時間を学校でとるような毎日でした。さすがにこのままではマズいと思ったのか、高2の夏に両親が勝手に申し込んできたのが簿記3級の資格講座でした。「合格したら賞金(ゲーム代)」というインセンティブにまんまと釣られ、高2の夏に日商簿記検定3級を受け、その流れで大学1回生で1級に合格しました。ゲーム欲しさから偶然踏み入れた簿記の世界でしたが、結局これがそのまま公認会計士を目指すことに繋がります。そういう意味では人生どこで路線が決まるかわからないものだなと思います。
監査法人時代は1番オタクだったという理由でIT監査部を兼務、とにかくがむしゃらに働いた
大学4回生で論文式試験に合格し、翌年春にあずさ監査法人大阪事務所へ入社しました。財務諸表監査を中心とする国内監査部門に配属され、1兆円クラスの一部上場企業から非上場の会社まで様々な業種のクライアントにお伺いしていました。当時はJ-SOX導入前後ということもあってやることも多岐にわたり、がむしゃらに働いていた記憶しかありませんが多様な企業を内側から見ることができたことがいかに貴重な機会だったかを今になって身に染みて感じています。特に役員会の議事録レビューなどはもっと隅々まで見ておけばよかったです。日本を代表する会社がどのように経営の意思決定しているのかを見れるチャンスなんてまずありませんので監査法人にいる間にこのチャンスを逃さないで欲しいと思います。
入社3年目に、IT知識を併せ持った会計士が必要だということで社内PJが立ち上がりました。所属していた部署で1番オタクだったこともありメンバーに選出され、1年半ほどIT監査部を兼務します。かたや国内監査部門でインチャージをやりながらIT監査も実施したため当時は多忙を極めていましたが、違った側面から監査を経験できたのは良い機会だったと感じています。並行してCAATと呼ばれるITツールを使った監査技法の検討が始まり、例えば通常想定されない仕訳を膨大な仕訳からいかに見つけ出すか、というのが自分にはゲーム感覚でとても面白く、ITツールの検討や研修講師などをやっていました。
あずさ監査法人には6年間お世話になり様々な経験をさせていただいたのですが、自営業の家庭で育ったこともあって、どうしても実際に事業会社に入って自ら数字を触る側を経験したくなり、散々悩んだ挙句に転職することを決めました。今となっては最適なタイミングでの転職と思いますが、当時はまだ監査法人を辞めて事業会社に行く若手会計士はあまり一般的ではなく、なかなか踏ん切りがつかなかったことを覚えています。最後はどっちが面白そうか、と妻が「とりあえずやってみたら?」と応援してくれたことでえいやで決めました。
組織内会計士として経営管理に携わり、会計以外に幅広い経験の機会を得る
2013年に外資PEファンドに買収された直後の株式会社あきんどスシローへ転職しました。業界首位の寿司屋なのに「ファンドが買収」「役員の半数は外国人」「組織にコンサル出身者や会計士が複数」という珍しい環境に惹かれ入社を決めました。このスシローに思い切って飛び込んだことが、自分の職業人生の中で重要なターニングポイントになっています。
入社時は財務経理部に配属されましたが、やってほしいことは山のようにあるからとりあえず来て!!みたいな感じで、正直何をするのかあまりよくわからないまま入社しました。転機があったのは入社3か月後ぐらいで、当時のCFO(カナダ人)から突然「サカイは今日から隣に座って僕のサポートするんだ」というお達しをいただき、そこからいわゆるFP&A(Financial Planning & Analysis)を中心としたCFO補佐的なお仕事となりました。資料作成業務を勝手に自動化したり、分析を加えていたのですが、そういう行為がこいつ便利そうだ、と思われたようです。事業会社においてはこの「こいつ、便利そう」とさっさと上位者に思ってもらえることは、楽しい仕事のチャンスを得るために大事なことじゃないかなと思っています。現職でも同じスタイルでやらせてもらっているのですが、逆に言えばそういう提案をまずはウェルカムに受け入れてくれそうな会社と転職の際に上手く出会えると、監査でやってきた経験がそれ以外のビジネスパーソンとは違う差別化されたスキルとして発揮しやすい=こいつ便利そう、に繋がりやすい気がしています。とにかくやること沢山ありそうな会社だとここらへんが適合する可能性が高そうです。
CFOからはミッションとして、やたら分厚い「理想のファイナンスレポート」と英語で書かれた資料を手渡され「ファンドが求めるコンテンツを入れ込んだファイナンスレポートを半年で完成させることになりました。
当時のレポートはPL/BSを貼り付けてコメントが付記する非常にシンプルなものでしたが、ファンドのリクエストは分析の粒度も非常に細かく、またKPIとの連動や見たい切り口も多岐にわたっていました。Excelでこれを実現することは到底現実的ではなく、新しい経営管理システムを3か月で導入し、無理やり完成させました。この経営管理システム導入を伴うファイナンスレポート体制の構築が企業の経営管理に携わる初めての大きな経験となり、まさに自分がやりたかった「数字を用いた会社経営への貢献」を少し実感できた瞬間で、そこから経営管理業務の面白さに取りつかれました。その後、経営企画部に異動し、役員会議を中心とした社内の会議体運営や中計策定、財務モデルの作成のほか、ファンドのExitに向けたIPOの実務責任者として一連の上場プロセスに従事しました。IPO後はIR業務のほか、海外規模拡大を行うための諸外国での市場調査など、数字を触る以外の事業そのものに携わる機会を得ました。
スシローでの経験は組織内会計士としてバリューを発揮するための自分の根幹となっています。結果として自分がラッキーなだけな気もしますが、そもそも転職する際に、この会社何かよくわからないけど色んな事が起こりそう、経験できそう、と感じる会社に飛び込めた(ご縁があった)ことは良かったかなと思います。「前向きなカオス感」ある会社だと、こういうチャンスを得やすいのかもしれません。また、監査メモの書き方・伝え方、クライアントとの関係性構築、審査資料での矢面に立つ説明経験など、一連の監査業務の中で得た経験を含め会計士として持っている肌感覚は事業会社内で差別化要素として十分発揮できるものだと思います。その意味で、経営管理に携わってみたいという方はインチャージまでは一通り経験を経てから転職されるのをお勧めします。
いつ死んでもおかしくない、から自分の原点だったゲーム業界へ
海外出張での移動中に時速170キロ近い車に後ろから追突されるという交通事故に見舞われることになりました。場合によっては死んでもおかしくなかったなという感じで、そこから、「いつ死んでもおかしくないなら、やりたいことをちゃんと自分で選択しないと後悔するのでは?」と考えるようになりました。息子が「将来の夢はゲームクリエイターになること」と書いた作文を持って帰ってきたのがダメ押しで、そもそも自分はゲームをきっかけに会計の世界に踏み入れたのに、結局ゲーム業界に何もできてないぞという気持ちが溢れ、一方で自分が貴重な経験をさせてもらっている実感もあり、そんな直観で動いていいのだろうか?と暫く悩み続けました。その中でご縁があったのが現在のHappy Elementsです。是非この経営者の役に立ちたい!と思ったのは面接で社長自らが御一人でこられ、一言目に「一緒に経営を悩んでくれる人を探してるんです」と言われたことにあります。なんとなく諸々の事故も含めてこれがご縁なんだろうなぁ、と不思議としっくりきたのを覚えています。そんなこんなでスシローには大変ご迷惑をおかけしながらも、直感に従って2019年秋にHappy Elements株式会社へ入社しました。Happy Elementsは、もともと生粋のエンジニアである現社長が始めた京都のベンチャー企業です。たった4人からスタートした会社ですが10年目を超える現在は250名規模の組織となっています。社長自身がエンジニア出身ということもあって「ユーザーファーストを実現するためのクリエイターファースト」を強く掲げており、これを言葉でいうのは容易いのですが実際に組織が実行していくことは非常に難しく、まさにここをどう会社として実現していくかが悩まれている所でした。
入社時数か月は社長室の1人経営企画としていわゆる経営企画業務全般を実施し、社長が間接業務に極力リソースを割かないでよい状態の構築をメインとしていました。その流れでバックオフィスそのものの責任者として人事以外の管理部門全体を見ることになりました。前職では数字をベースとした仕事が中心でしたが、それに加えて法務や総務、情報システムなども合わせて広く管掌することになり、本社機能全般を俯瞰する機会を得たのが新たな経験となっています。自分にとって良い部分としては趣味がそのまま仕事に活かされていくところでしょうか。オタクとしては最高の環境です。
2022年からは現職(執行役員 財務責任者)に就任しています。スシロー時代と変わらず、とりあえず数字/お金に関することは全て自分の業務範囲だと思っていますが、それ以外に社長の頭の中を何とかトレースさせて、少しでも近い目線で議論、会社運営ができるよう意識しています。組織運営とクリエイターファーストな環境を従業員に提供することは性質的に相反することが多いです。クリエイターが思う存分モノづくりができる環境を大切にしながらも、かたや会社として健全な運営と成長を行っていける着地点はどこか、そのギリギリを探っています。
会計士は好きな場所で好きなことで生きていきやすい稀有な資格
会計士資格の魅力は「好きな場所で好きなことで生きていくためのハードルが低くなるところ」ではないでしょうか。会計士という資格があったからこそ上手く腹積もりができ、結果として幸運だったことに合わせて楽しい仕事のチャンスに繋がりやすくなったのではないかと思っています。
正直20代で監査法人から外に出ることは当時めちゃくちゃ怖かったのですが、それでもいま自分が本当に好きな場所で好きなことをやって生きていける環境に出会えたことは、会計士の資格と思い切って飛び込んだ事業会社での経験の重ね合わせだと思います。どちらか1つでは足りませんでした。
もしいつかは事業会社で働いてみたい若手会計士の方は、ぜひ20代のうちに一度監査法人の外に出てみられることをお勧めします。1社目で自分が共感できる素敵な場所に巡り会えたら最高だし、もしかしたら本当の出会いはその次かもしれませんが、会計士の資格とちょっとした思い切りがあれば、結構楽しい世界が待っているのではないでしょうか。自分もこの先、何があるか全然わからないですが、とりあえず組織内会計士として何かと楽しく生きていけるんじゃないかなと勝手に思っています。自分が選択した道は必ずしもスタートアップのCFOみたいなキラキラした世界とは違いますし、そこに憧れが全く無いといったらそれも嘘になりますが、1つのケースとして好きな場所で好きなことで生きていくという選択も会計士にはあるんだ、ということで何か若手会計士の皆様の参考になれば幸いです。ありがとうございました。
プロフィール
トップランナー 公認会計士 vol.12
Happy Elements株式会社
執行役員 財務責任者 酒井 大輔
Happy Elements株式会社 執行役員 財務責任者。同志社大学商学部卒。神戸大学MBA修士。あずさ監査法人大阪事務所を経て、2013年、株式会社あきんどスシロー入社。同親会社である株式会社スシローグローバルホールディングス(現株式会社FOOD & LIFE COMPANIES)にて経理、財務、FP&A等を経験した後、同社経営企画部長に就任。2019年10月、Happy Elements株式会社入社。週末は3人の息子に振り回されているが、夜な夜なヘッドセットを被り仕事という名目でVRの世界に潜っている。
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