上場準備会社の常勤監査役として
活躍する女性公認会計士
日本公認会計士協会 近畿会 広報部部長
桂 真理子さん
高校1年生で公認会計士を志すも
受験勉強開始とともにドロップアウト
中学時代は吹奏楽部でフルート。高校時代はソフトボール部で汗を流した私が、公認会計士を志したのは高校1年生の時です。もともと、両親からは「資格を取った方がいいよ。」「税理士になったらどう?」などと言われていましたが、文理選択にあたり将来の進路を具体的に考え始めた頃、担任から「職業図鑑」の公認会計士のプリントを手渡され、直感的にカッコイイと思ったことがきっかけです。
大阪大学経済学部へ進学した私は、2回生から資格予備校に通いはじめます。しかし、楽しいことに目がない私は、彼氏ができたせいで⁉すぐに授業について行けなくなりました。完全にドロップアウトです。このままではマズいと思い、3回生になってから勉強に本腰を入れ、4回生で短答式試験、翌年に論文式試験に合格。就職先は最初に内定をいただいた有限責任監査法人トーマツ大阪事務所に決めました。
監査はスキルの基礎固め
監査法人時代を振り返ると、商社、製造業、倉庫業、不動産業から学校法人まで幅広い業種の監査を経験できたと思います。仕事が早くて、スタッフ時代はスピードスターの異名を取るほど、監査調書を音速で仕上げていました。さっと仕上げて、チームの他の仕事も手伝って、手が空いたら会社の資料を眺めたり、会社の方と話したりしていました。当時は何気なくやっていたこの行動が、後にとても役に立った一方で、リスクともっとじっくり向き合うことも大事だったと思います。
よく、監査Auditの語源は「Audio=聞くこと」から来ていると言いますが、まさにそれ。監査法人時代に、会社経営の教科書たる上場会社の方々から沢山の話を聞いて、情報を蓄積したことが、自身のスキルの基礎固めになったと思っています。
監査法人では素敵な上司に、憧れの先輩、心の友の同期に、慕ってくれる後輩に囲まれて、皆様に可愛がっていただきました。誘われる飲み会やゴルフにも皆勤するくらい楽しくて、体育会系ノリのトーマツは本当に居心地が良かったです。
監査の第一線から引退を決意させる出来事
トーマツに入社して7年目の出来事です。担当し続けてきた会社の「ロケーション別在庫金額」を新任パートナーに質問された際に、私は即答できなかったのです。会社にそのようなデータがなかったために、在庫の全体像が把握できていなかった自分に幻滅しました。「私の7年間は数字のまちがいさがしをしていただけだったのかもしれない」と落ち込みました。と同時に、燃えつきたのでしょうか。折しも子宝に恵まれた私は、子育てに専念することにしました。俯瞰できない自分に蓋をして、いったん「ママを楽しもう」と気持ちを切り替えました。
最初は1年だけの育休のつもりが、子育てがあまりにも楽しくなります。第二子の育休を連続フル消化し、そろそろ監査法人に復帰しようと考えていた頃、リーマンショックの影響からトーマツは2011年に早期退職の募集を実施します。復職するつもりだっただけに悩みましたが、今私を必要としているのは監査法人かこの子達か、と考えたら、答えはおのずと出ました。監査法人を退職するときはやっぱりちょっと切なかったです。
公認会計士協会「ハロー!会計」の講師に応募する
平和で愛あふれる主婦の毎日を満喫していた私ですが、子供たちが学齢に達すると急に暇を持て余してしまいます。そんな時、目に留まったのが、近畿CPAニュースの「ハロー!会計」の記事でした。公認会計士が小中学校を訪問して会計の授業をするというものです。すぐに講師に応募し、それ以来、長らく「ハロー!会計」の担当者として「会計を知るとキミの未来はもっと明るくなる!」と、会計の魅力を伝える工夫を重ねてきました。近い将来、「ハロー!会計」がきっかけで公認会計士になった方に出会えるかもしれないと期待を膨らませています。そんな想いをずっと抱きながら、現在は近畿会の広報部長も務めています。
「ハロー!会計」の活動中に、会計士の大先輩から声をかけられます。
「あなた、普段はどこで働いているの?」
「主婦をしています」
「じゃあ、上場準備会社の監査役をやってみない?」
声をかけてくださった先生は非常に顔の広い方で、近畿圏のIPO関係者と人脈を持たれていました。上場するためには常勤監査役が必要ですが「現職のない公認会計士」である私を発掘してくださったのです。これが「監査役デビュー」のきっかけとなりました。
監査役は会社の「お母さん的存在」
2015年10月、上場準備会社の常勤監査役に就任し、私のキャリアがリスタートしました。最初は不安でしたが、取締役会資料や会計数値に目を通して、社内外の方と話しているうちに、勘はすぐに戻りました。監査役の仕事は、取締役の職務執行の監督や資料のチェックから監査役会の運営まで会社全体に及びます。事業戦略や時価総額に思考をめぐらしながら社内メンバーと話し合って会社経営に関われることが本当に楽しいです。「会社は人でできている」、真にそう理解した時、会社を俯瞰している自分に気づき、監査法人時代によくわからなかったリスクが見えてきました。
2022年4月に株式会社プロディライトの常勤監査役に就任しました。監査役は会社のよろず相談所。業務を執行することなく、会社を見守るその姿勢は「会社のお母さん的存在」とも言えます。会社や社長のビジョン、中期経営計画と照らし合わせながら会社経営を監督するためには、社内外の円滑なコミュニケーションが不可欠。問題を指摘するときは、「社長、お尻ぺんぺんです」から始めますから(笑)。
日々の業務では、社内の担当者から会計処理やコンプライアンス面でのアドバイスを求められたり、何かしらの相談事が持ち込まれたり、常に誰かとお話しています。監査役は「人」を見る仕事。監査法人での経験もフル活用できますので、視座を上げたいと思っている会計士にお勧めできる仕事です。
上場準備というのは、オーナーを中心に物事を考えていた中小企業が、投資家からの企業価値向上の要求に応えられるだけの成長性とガバナンスを備えた上場会社として、株式市場にその魅力を売り出す作業です。
上場準備は上場準備チームだけが頑張るのではなく、会社の全役職員が社長を中心に一丸となって取り組む一大イベントです。例えていうなら、会社という生徒が、東証(=東大)に合格するために、証券会社(=先生)の指導を受けながら、定期的に監査法人(=採点者)のチェックを受け、証券代行・証券印刷やコンサル等(=応援団)に助けてもらいつつ、最後は自力で入試(=東証審査)を突破する感じです。ここで大事なのは上場ゴールにならないよう、上場後の成長戦略も描いたうえで上場を達成することでしょうか。
ママになったら監査役!
私は「ママになったら監査役!」と声を大にして言いたいです。当然ながら、ママになれば育児による時間的な制約が発生します。この点、監査法人やコンサルティング会社と比較すると、監査役の仕事は時間的な自由度が非常に高くなります。ですので、ワークライフバランスを重視したい公認会計士にはお勧めできるポジションです。また、女性会計士の常勤監査役は全国でもおそらく100名ほどしかいないため、ダイバーシティの観点からも非常に大事に扱われます。
加えて、公認会計士が在籍している上場準備会社は、まだまだ少ないのが現状です。上場準備会社では会計監査で培った専門知識をダイレクトに発揮できると思いますし、監査法人や証券会社から「何を指摘されるのか?」ということを先読みすることもできるため、組織の中で目に見えて役に立てる存在になり得ます。不正を見逃してはいけないという責任の重さは伴いますが、公認会計士としての醍醐味を感じられる働き方ではないでしょうか。
日本公認会計士協会の新しいキャッチフレーズに「信頼の力を未来へ」とありますが、その言葉のとおり会計士の使命は社会に対して信頼を生み出すこと。監査役として、「正しいことを正しいと言える」立場であることに感謝し、日々信頼の重みを意識しています。
プロフィール
トップランナー 公認会計士 vol.15
株式会社プロディライト 監査役
日本公認会計士協会 近畿会 広報部部長
桂 真理子 Mariko Katsura
1977年生。岡山県新見市出身。1999年大阪大学経済学部卒。有限責任監査法人トーマツ大阪事務所を経て上場準備会社の常勤監査役を歴任。趣味はゴルフと「ハロー!会計」。会計基礎教育からサステナビリティ経営、子供から経営者まで、会計・監査をわかりやすく伝えようとする姿は熱く、共感する公認会計士も多い。得意技はコーポレート・ガバナンス。経営者のやる気を最大限に引き出すガバナンスの実践に日々楽しく挑戦中。
(2023年6月㈱プロディライトは東証グロース市場に上場)
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