監査法人・製薬会社を経て
上場準備を担うCFOへ
取締役 管理部長 水田 昌義さん

大学時代に実務家の講義を受講し監査のプロを志した
大阪府枚方市出身の私は自由奔放な少年時代を過ごしました。成績は真ん中、どちらかというとスポーツは苦手な卓球部員でした。高校は兄と同じ京都の洛星高校へ進学し、演劇部の活動に没頭。1年浪人をして京都大学経済学部に入学しました。大学時代は居酒屋のアルバイトに精を出し、お金がたまったら旅行に行くことを繰り返していました。1年間そのような生活をしていたものですから、大学の単位が取れないわけです。このままではマズイと思った私は、2回生から真面目に勉強し始めました。経済学部でしたので、会計学・経済学・経営学といった科目に触れることができました。「数字がわかれば会社が見えてくる」ことを知った私は、少しずつ会計学や監査論といった講義に興味を持ち始めます。当時の私は上場企業が意図的に悪いことなどするはずがないと思っていたのですが「会社がどういうところで数字を良く見せようとするのか?」といった監査の視点に驚きました。また大学の講義でオムロン株式会社の監査役の話を聴く機会があり、監査が会社の信用を補強することを強く感じました。この時私は「監査のプロになりたい」と思い、TAC京都校へ向かったのです。
会計士受験生時代を振り返ると、最初のうちは簿記で貸借を一致させたり財務諸表論のロジカルな考え方に日々「なるほど」と感じ、勉強の楽しさを感じていました。ところが徐々に学習ボリュームが膨大になっていくと苦しくなっていきます。最初の本試験に失敗したときは不安でしかたなかったことを覚えています。大学の友人は就活で内定をもらっていく中、私は将来が不透明な受験生。しかも就職氷河期のど真ん中でした。2003年に論文式試験に合格したときには、本当にホッとしました。
公認会計士試験に合格した私は、新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)に入社。
小売、流通、繊維メーカー、食品、製粉から酪農まで幅広い業界の監査の現場を経験しました。酪農の棚卸では牛や豚を数えたこともあります(豚は餌を食べて大きくなるにつれて簿価が大きくなることに面白味を感じました。)。いずれにしても、最初は会社の仕組みを理解することに苦労しました。監査人の目線になるまでに3年はかかったと思います。就職氷河期に入社した大阪事務所の同期は20人程度と少人数で、繋がりはとても濃いものになりました。

大阪から東京の品質管理部門へ異動しIFRS特需対応に追われる
時は流れて素材メーカーの主査になると、その会社が海外の同業他社を買収することになりました。その影響で海外とのやり取りをする仕事が増えたのですが、英語はまったく勉強しておらずだいぶ苦労しました。最終的にその素材メーカーの監査が英語の堪能な東京事務所管轄となります。「東京事務所に異動する?」「監査法人を辞めて語学研修?留学?」などと進路に悩んでいた時、当時のパートナーから「IFRSの部署で英語を勉強したらどうだ?」とアドバイスをいただきます。ちょうどその頃、日本企業にIFRSが導入されるのではないかと囁かれていたのです。2008年、私は東京のIFRS専門部隊に異動。いわゆる品質管理部門です。ちょうどIFRSが強制適用になる年でした。
私に任されたのは上場企業にIFRSの仕組みを説明し基準が正しく適用されているのかをチェックする仕事です。当時はとにかくIFRS特需。企業がIFRSを導入するためには3年程度を要しますので、多忙を極めました。しかし、品質管理業務は季節労働ではなく、旅行にも行けるなどしたためストレスは感じませんでした。英語も勉強しつつ、マネージャー職として、東京事務所にいた6年間で鉄道・製造・製薬・小売など多業種のクライアントへ赴きました。どのクライアントも、単なる会計基準の変更ではなく、業績評価やIRの対応にも真摯に取り組まれ、私も会社のビジネスモデルやオペレーションを理解することができました。なにより、東京に行くと会社の規模も数も多くて様々な会計論点を目の当たりにしましたし、それを適時適切に対応する監査法人内の「すごい会計士」に何人も会うことができ、貴重な経験を得られました。
2011年の東日本大震災後は大阪のクライアントも担当し始め、東京と大阪の案件が半々でした。2014年、大阪でIFRSの営業を強化するミッションが課された私は、6年ぶりに大阪事務所へ戻ることになりました。ところが、2015年にEYが、企業の不正を見抜けなかった問題で営業を控え監査品質の向上に専念する方針に転換し、6年も監査現場から離れていた私は将来に不安を感じました。「監査部隊に戻って仕事できるのか?」「自分が監査品質の向上に貢献できるのか?」30代後半になった私は、公認会計士としてのキャリアの方向性に悩みに悩みました。長考した末、私はインハウス会計士の道を選び、2018年にEYを退職しました。

大手製薬会社へ転職し持株会社の設立に携わる
14年間在籍した監査法人を退職した私は、会計士専門の転職サイトに登録。まずは自分の「できること」と「できないこと」を分析することから始めました。タイミングよく、大阪の大手製薬会社の求人を紹介いただきました。実はその会社がEY時代にIFRSの提案営業をしていた会社だったのです。そんなご縁もあってか、私は運よくすぐに転職できました。
当時の会社はアメリカの会社を買収したばかりで、IFRS導入の終盤を担当するところから関与しました。経理グループに配属されましたが、会計士や税理士も複数名所属し、職場には違和感なく入っていくことができました。海外子会社の買収後、2019年から2年間は純粋持株会社の設立業務に取り組みました。事業会社を持株会社とする一般的な持株会社化では、医薬品に記載される会社名を全て新しい社名に変更する必要があり、生産部門に多大な負担がかかることから採用せず、新たな持株会社を設立することになりました。しかしその場合、米国株主が10%を超えていたため、米国SEC (Securities and Exchange Commission:米国証券取引委員会)の登録が必要で、英文財務諸表を含むSECへの提出資料作成やSECとのやりとりなど、業務で英語を使用する場面が増えました。この時、本当に英語を勉強していてよかったと思えました。2021年、持株会社体制へ完全移行したときには、自分が関与した仕事が目に見える形となり、大きな達成感を味わうことができました。
組織体制が落ち着いてからは、IRを通じて経営の視点を養うことができました。とりわけ海外子会社の業績不振でのれんの減損計上をした際には、資本配当のような会計論点の検討だけではなく、減損と業績評価の関係や投資家への説明資料作成にも関わることができました。そうこうしているうちに当該子会社の売却案が浮上したのです。そうなると、会社が私の入社前とほぼ同じ状況に戻ることとなるので、私のミッションは見当たらなくなります。同じ時期に母が体調を崩し介護の時間も必要になっていました。ここが潮時と思い、私は会社を退職して独立することを決意したのです。

管理部門を統括しながら上場準備を進める
私が独立したのは2024年1月です。独立したとて、最初から仕事があるわけではありません。しかし、すぐに仕事がみつかるのが公認会計士の強み。EYの先輩から「東京で上場を目指している会社があるから手伝ってもらえないか?」と声がかかります。ありがたい縁を感じて私は二つ返事で引き受けました。また製薬会社時代にお世話になった会計士の先輩に声をかけていただき、監査法人から非常勤の仕事をもらいました。こうして仕事をしながら、母の介護をする生活となりました。その後、母が他界し、気持ちが落ち着き仕事を増やしていこうと考えていたところ、その上場支援をしていた会社から入社を勧めていただきました。
2025年1月、私は株式会社リーフホールディングスの非常勤取締役に就任。3月には完全移籍し、取締役・管理部長となりました。管理部は経理や財務に留まらず、人事・総務・法務も管轄している部署です。いままで様々な会社を見てきましたが、人事や総務に関する知識はゼロ。最初は右往左往しながら仕事を進めました。総務系では、各種社内規定から地震等の緊急事態対策マニュアルまでを作成。人事系では給与計算システムの導入から勤怠管理まで幅広く経験できました。
2026年現在、上場へ向けたN-1期のフェーズに入り、ここからが本番を迎える時。社長のサポートをしながらリーフホールディングスをより良い会社にしていきたいです。そして、自分がいなくなっても会社が回る仕組みをつくることが私のミッションだと思っています。
今振り返ると、いろんな方に恵まれた会計士人生を歩んでいると実感できます。困ったときは誰かが声をかけてくれ、気づいたら面白い仕事をしている。本当に幸せなことだと思っています。読者の若手会計士の方にメッセージがあるとすれば、与えられた仕事は全力で取り組むことです。あなたの仕事は必ず誰かが見ています。それが必ず次のチャンスにつながっていきます。
プロフィール
トップランナー 公認会計士 vol.34
株式会社リーフホールディングス
取締役 管理部長
水田 昌義 Masayoshi Mizuta
1978年生まれ、大阪府枚方市出身。2003年に新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)に入所し、監査業務、IFRS品質管理、IFRS導入支援に従事。2018年に大手製薬会社に転職し、IFRS導入・持株会社化を経験。2024年に独立し、上場支援等を行う。現在は株式会社リーフホールディングスの取締役管理部長として管理業務を管掌している。
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