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ヘルスケア分野をライフワークに

たつみ会計事務所 辰巳 尚
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キャリア設計を逆算しヘルスケア分野をゴールに設定

私が論文式試験に合格したのは就職氷河期の2010年でした。私は監査法人ではなく上場企業へ就職し、経理部門で最初のキャリアを積みました。その後、あずさ監査法人に転職したのは30歳の時です。当時は年齢的な焦りもあり、とにかく会計士として「差別化を図りたい」と考え始めました。キャリア設計の逆算をした結果、私はヘルスケア分野のスペシャリストになることをゴールに設定しました。

ヘルスケア分野を選んだ理由は3つあります。1つ目は、社会的意義が大きい分野であること。2つ目は、将来的に需要が大きくなる分野であること。そして3つ目は、医療に特化した公認会計士は少数派であるため、自分次第でプロフェッショナルとしての付加価値を最大化できると考えたからです。

あずさ監査法人で4年目を迎えた時、KPMGヘルスケアジャパン株式会社へ転籍。ヘルスケア分野のFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)、事業・財務デューデリジェンス(買収監査)からバリュエーション(企業価値評価)まで幅広く経験することができました。

キャリア設計を逆算しヘルスケア分野をゴールに設定

独立して食えなくなる会計士はいない

KPMGヘルスケアジャパンでの毎日は非常に充実していました。クライアントは、大手医療機関や投資ファンドが中心でした。独立を決意した理由の1つは、クライアントのサイズダウンをしたかったことです。KPMGの単価はとても高く、一般的な医療機関にとっては非常に敷居が高いです。医療経営者と関わりながら、医療業界の経営を直接的に支援したいという気持ちが大きくなりました。より現場に近いポジションから、世のため人のために貢献できる仕事がしたかったのです。

2019年9月にKPMGを退社し、翌月から「たつみ会計事務所」を開業しました。翌年の2020年7月には法人化も行いました。企業経理・監査・アドバイザリーと一連の業務を経験した上で、医療業界の専門性も高めてきましたから、独立することに特段不安は感じませんでした。私は協会活動を通じて多くの会計士に接点があり、独立してもうまくいかず、独立を辞めて転職された方も知っています。ただ、独立して「食えなくなる会計士」は聞いたことも見たこともありません。会計士にとって独立するリスクは非常に低いです。

独立後は、クライアント・ゼロからのスタートです。最初のうちは、監査・アドバイザリーを含めて「下請け」のお仕事も積極的にこなしましたが、できるだけ時間の拘束を伴わない業務を受注するように心がけました。それはいつ自分の仕事が入っても対応できるようにするためです。昼は自分の仕事、夜は下請け仕事ということもあり、きついときもありますが、事業を軌道に乗せるためには必要なことだったと思っています。とりわけお金をかけた特別な営業活動はしていませんが「こういう事務所を始めました」と挨拶をしていくうちに、自ずとお仕事をいただけるようになり、きちんと成果を出せば自然と次に繋がっていきます。日本公認会計士協会の東京会青年部や地区会(港区)に所属しているのですが、こうした組織で知り合った方からお客様をご紹介いただくこともありました。今後は、事務所のホームページのコンテンツも拡充し、お客様向けのセミナーなども展開していければと思っています。

独立して食えなくなる会計士はいない

私が志す医療経営アドバイザリー

私が志す医療経営アドバイザリー

医療経営の課題はいろいろありますが、これまでに数多くの現場を見て、また多くの経営者の皆様と接するなかで、ヘルスケア分野では、業界特有の大きな課題があることに気付きました。それは、多くの経営者の皆様は医療・介護分野の専門家ではあるものの、経営者としてのノウハウや経営分析の視点は不足しがちであるということです。経営は医師の専門分野ではないため、それは当然のことだと思っています。非現実的な計画に基づき、経営が傾いてしまい、いろいろな方が不幸になった事例もあります。医療経営アドバイザーとして、周囲の医療機関の状況や関係性及び人口動態といった外部環境分析の視点を持ちながら、医療機関内部の財務状況を踏まえた資金計画や事業計画を作成し、医療機関の進むべき道を示唆できればと思っています。適切なアドバイザーがいたおかけで、各ステークホルダー(医療機関の経営者、医療機関に資金を出している金融機関、医療機関の患者など)の利益が増すことが私の志す医療経営アドバイザリーです。
また、ヘルスケア分野は私にとって単なる仕事だけではありません。医療業界は社会保障費で賄われており、社会保障費は増加の一途を辿っています。今後も増加を続け、ピークである2040年ごろには90兆円になるとも言われています(現在約50兆円)。小さい子供を持ち身として非常に心配です。医療産業は規制産業でもあり、とても多くの課題が残った産業です。私は医療界にとってメインプレイヤーである医療従事者ではありませんが、違う視点を持っている者として少しでも医療業界の発展に貢献することが私の人生におけるライフワークだと思っています。

医療機関の監査や税務に強い会計士は珍しくありません。また医療事業に関するコンサルタントも多くいます(非会計士)。しかし、ヘルスケア分野の事業面に精通しながら、財務・会計面のアドバイザリーを行える人は非常に稀だと思っています。事業面を考慮したうえで、財務三表を具体的に提示しながら、5年後・10年後の財務状況を見据えた未来志向のアドバイザリーサービスを提供していきたいと思っています。

若手会計士へのメッセージ

公認会計士の人数は、2000年と比較すると2倍以上です。2010年からの10年間でも1万人以上も増えています。その間日本の人口は増えていません。20年前であれば、公認会計士という資格さえあれば存在感がありましたが、今は違います。10年前であれば、例えば財務デューデリジェンス業務に携わっている会計士はとても重宝されましたが、今では珍しくありません。会計士としての「輝き」を保つためには、何らかの差別化が必要といえるのではないでしょうか。若手会計士の皆さんには、是非ともライフワークにできる専門分野を見つけてもらいたいです。

若手会計士へのメッセージ

プロフィール

トップランナー 公認会計士 vol.4 辰巳 尚 Hisashi Tatsumi たつみ会計事務所公認会計士。

トップランナー 公認会計士 vol.4
辰巳 尚 Hisashi Tatsumi
たつみ会計事務所


公認会計士。慶應義塾大学商学部卒業。日本電産株式会社で本社経理業務を経験後、買収子会社に出向。業績管理を主に担当しながら、海外子会社管理や決算早期化にも従事。
2014年にKPMGグループのあずさ監査法人に転職。上場企業等の監査に従事する一方、IR(統合型リゾート)支援業務や医療法人の内部統制支援業務等のアドバイザリー業務にも関与。その後、日本のヘルスケアアドバイザリーでリーディングカンパニーであるKPMGヘルスケアジャパン株式会社に転籍。売り手・買い手双方のFA業務、事業デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、事業計画策定、官民病院の統合プロジェクトなど多岐に渡る業務に携わる。

TACマリッジコンシェルジュ
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