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トップランナー 公認会計士

監査法人、事業会社を経て
CFOの道を歩む会計士

株式会社シンカ取締役 石川祐介さん
株式会社シンカ取締役 石川祐介さん株式会社シンカ取締役 石川祐介さん

就職氷河期の中、公認会計士を志す

鹿児島のラ・サール高校から東京大学経済学部へ進学した私は、いたって一般的な学生生活を満喫していました。音楽好きの私はビートルズ研究会に所属し、毎日のようにギターを弾いて、あまり将来のことを考えず、音楽活動に夢中になっていました。しかし、当時はバブル崩壊のつめ跡が残る中、いわゆる就職氷河期の真っ只中。就職活動で苦労している先輩の姿を目の当たりにした私は「何か資格を取ろう」と思い立ちました。
そうした中で公認会計士を選んだのは、様々な会社を独立の立場で見ることができること、また会社のいろいろな場面や局面に携わることができる仕事であり、仕事を通じて自分の知見を広げ続けることができるのではないかと考えたためです。

就職氷河期の中、公認会計士を志す

あずさ監査法人での幅広い経験

あずさ監査法人での幅広い経験

大学を卒業した翌年の2004年、私はあずさ監査法人へ入社します。あずさ監査法人では、IPO支援部門、品質管理部、海外(KPMGシンガポール)、国際部の4つの部門を経験しました。

始めに配属されたのはIPO支援部門で、ここでは監査人としての業務や心構えを学ばせてもらいました。また当時はIPO低迷期であり、年間数十社くらいしか上場していなかったのですが、とある会社のIPOを実質的な現場主任として担当できたのはラッキーでした。
また、英語で業務を進めないといけないクライアントの現場主任をするなど、当時は相当苦労しましたが、その後の自分の成長につながるバリエーション豊かな業務を担当することができました。

その後は監査現場から離れ、法人本部の品質管理部に異動しました。当時、国際監査基準(ISAs)が全面改訂され、それまでの監査基準が整理されたとともに、グループ監査(連結財務諸表等に対する監査)の基準が新規に導入されました。そしてこれを受け、KPMGインターナショナルは監査マニュアル、監査ツールを新しく開発していました。
ちょうどこれらが日本で適用されようとしていたタイミングで、あずさ監査法人の監査事業部にこれらを導入するプロジェクトに参加させていただきました。
当時の品質管理部のパートナーの中は、国際監査基準の開発に関わっていた方が何人かいらっしゃいました。そうした監査のエキスパートに囲まれながら「監査基準が本当に想定していること」に触れることができたことは大きな財産です。また、この仕事で主に私はグループ監査を担当したのですが、このグループ監査をより理解してもらうためにあずさ監査法人ローカルのFAQの開発を企画し、実際に作成してリリースしました。私があずさを退職してからもこのFAQは活用されていたため、後に残る仕事ができたことを今でも大変嬉しく思っています。

ソフトバンクグループでの内部監査部門のPMI手法の確立

ソフトバンクグループでの内部監査部門のPMI手法の確立

その後KPMG Singaporeへの出向や東京事務所への帰任を経て、2013年、私はあずさ監査法人を退社し、ソフトバンク株式会社(現ソフトバンクグループ株式会社(以下SBG))の内部監査室へ転職します。転職を考え始めた2012年の終わりに、SBGが米スプリント社を買収するというアナウンスを目にしました。その後2013年に転職エージェントから、「SBGでスプリント担当者を探している」という話が。スプリントは米携帯電話業界の大手で、買収額は約2兆円。当時、日本最大級の事業会社の買収で、これは面白そうだと思い転職を決めました。当初の希望は経理でしたが、配属されたのは内部監査室。そこは正直想定外でしたが、スプリントを担当できるならばと。

こうした大型の事業投資はこれまでに例がなく、当然親会社の内部監査人が何をすべきかなど過去事例もない状況でした。そうした中、当時のSBG内部監査室ではスプリントをどのようにPMI(Post Merger Integration:買収後の統合プロセス)すべきかが議論されている状況でした。

そこで生かせたのはあずさ監査法人の品質管理部での経験です。国際監査基準の「グループ監査」の考え方をベースにスプリントの内部監査部門の評価やモニタリングを行う手法を企画・開発し、スプリント側の同意を得てこれを実施しました。

その後、SBGはアメリカのブライトスター社やイギリスのARM社を買収しますが、これらの内部監査部門にも同じ手法を適用し、グローバルレベルでの内部監査部門のPMIを成功させました。

またさらに、これら個別の子会社のPMIを実現した後は日米英の内部監査手法や品質を統一すべく、内部監査に関する監査調書を統一するとともに、リスク評価等の手法についてナレッジ共有する場を設けました。一般に、内部監査の手法やナレッジは個別の会社で閉じていることが多いと思います。ですがSBGグループでは、監査調書の統一を通じてSBG、ソフトバンク株式会社、スプリント、ブライトスター、ARMでこれらを共有することに成功し、結果としてSBGグループ全体の内部監査の底上げに貢献できたと考えています。この経験は自分にとってかけがえのないものですし、今でも誇りに思っています。

会計士としてCFOの道を歩む

会計士としてCFOの道を歩む

SBGにおける内部監査のPMI業務がひと段落した頃、次のキャリアを考え始めました。今までは、監査法人や一般事業会社の内部監査というディフェンシブな仕事に取り組んできた私は、会計士としてもう少しオフェンシブな仕事はできないだろうか?と考え始め、CFOの道を模索します。2017年、ご縁もあり東京大学発バイオベンチャーのアキュルナ株式会社(後にナノキャリア株式会社に買収)のCFOに就任。
ここでは、ベンチャーキャピタル(以下VC)から約5億円の資金調達をしました。もともと医療や薬学の知識はないものの、CFOとしてVCに対してその技術を説明しなければなりません。VCのバイオベンチャー担当にはこれらの分野の博士もいらっしゃいましたので、最初はかなり苦戦しましたが、CSO(Chief Scientific Officer)とともに技術やその将来性を説明し、なんとか資金調達を成功させました。

そして、様々なご縁を得て2018年9月に現職である株式会社シンカのCFOに就任します。シンカの主力製品は、顧客コミュニケーションを一元管理する「カイクラ」です。クラウドシステムでお客様との円滑なコミュニケーションをチームで実現できることが強みの製品です。たとえば、電話着信と同時に、パソコンやタブレット端末にその顧客の情報やこれまでの対応履歴が表示されます。その機能を主軸として、通話録音、通話録音内容のテキスト化、SMS、DM、テレビ通話機能が搭載されています。お客様は、自動車ディーラーや不動産管理会社などを中心に、お客様の事業上電話コミュニケーションが必要不可欠な会社様に幅広く利用いただいております。

シンカは現在8期目で、売上高は前年比で150%成長を続けています。私自身は入社して約3年となりましたが、資金調達などの財務業務、経理業務、法務対応、評価制度などの人事制度構築など管理部門全般を担当しながら、取締役として様々な全社的な経営課題と向き合っています。
まだまだCFOとして経験が豊富であるとは言えませんが、そんな私をCFOとして迎え入れてくれている社長と社員の皆様には本当に感謝しています。

若手会計士には「知らないことがある世界」でチャレンジしてほしい

若手会計士には「知らないことがある世界」でチャレンジしてほしい

若手会計士の皆様には、大きく二つのことをお伝えしたいです。

一つ目は、「いろいろな世界を体験してほしい」ということです。例えば監査法人や同じ会社でずっと同じことを繰り返していると、どうしても閉塞感に陥ってしまいがちです。しかし、会計士として培った知識や経験はもっと幅広い世界で生きるものですし、むしろそうした世界で使わないといけないものだと思っています。ぜひ恐れることなく、様々なことを経験していってほしいと思っています。

二つ目は、矛盾するようですが、そのためには「自分の今の仕事を大事にし、自分なりに全力を尽くす」ことを怠らないでほしいと思っています。新しい世界に飛び込むということは、下手すると何も分からない中で仕事をしないといけないということです。今向き合っている仕事に全力を出せなければ、こうした新しい環境下で活躍することはできません。また、自分の仕事ぶりは必ず誰かが見ています。自分の自信と他人からの信用を作るためにも、今の環境で今の仕事に全力を尽くすことは忘れないでほしいと思います。

そうすると、自ずと自分を支えてくれる人に出会えますし、また自分でも予想できなかったような経験ができると思います。
皆様の今後のご活躍が、少しでも自分自身のみならず世界を良くすることを願っています。

プロフィール

トップランナー 公認会計士 vol.7 石川 祐介 Yusuke Ishikawa

トップランナー 公認会計士 vol.7
石川 祐介 Yusuke Ishikawa


東京大学経済学部卒業 公認会計士。
2004年、KPMGあずさ監査法人に入社。IPO関連業務や財務諸表監査、内部統制監査等に従事。その後本部品質管理部にて新国際監査基準(Clarified ISAs)に準拠した新KPMG監査基準・監査ツールの導入プロジェクトに従事。同プロジェクト終了後はKPMG Singapore及びあずさ監査法人東京事務所にてIFRS監査に従事。
2013年にソフトバンクグループ株式会社に入社。内部監査室にてSprint Corporation、Brightstar Corp.及びARM Holdings plc.等の買収子会社の内部監査部門のPMIを主導するとともに、海外子会社に対する内部監査を実施。
2017年、アキュルナ株式会社の財務担当取締役に就任。資金調達や海外向け広報活動等を手掛ける。
2018年9月、執行役員CFOとして株式会社シンカ入社。
2020年3月、株式会社シンカ取締役就任。

株式会社シンカ
https://www.thinca.co.jp/

TACマリッジコンシェルジュ
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