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不正を精査する
フォレンジックのスペシャリスト

株式会社KPMG FAS
斎田 修さん
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外資系メーカーを退職し会計士受験に専念する

2000年に大学を卒業した私は某大手化学メーカーへ就職。液晶の輝度を上昇させる工業用光学フィルムの営業マンとして日本全国を飛び回っていました。当時は液晶テレビの大型化・高輝度化や携帯電話における液晶画面のカラー化が急速に進んでいた時期で、私が担当していた光学フィルムの需要も非常に高く、そのため相当強気な単価を設定していました。しかし、この設定単価がまさに絶妙であり、私が所属していた事業部門は高利益率を維持したビジネスを長きに渡り展開することができていました。もともと数字には疎かった自分が数字に関心を持つようになったのも、こうした会社の利益構造がわかってきた頃になります。営業経験を通じて販売価格・販売数量・在庫・減価償却費・人件費等といった要素が密接に絡み合い、その結果が「数字」として表れてくることを次第に理解できるようになり、数字を正しく知ることがビジネスパーソンとして強い武器になることを感じ始めるようになりました。このような経緯もあり、手始めに日商簿記3級・2級を取得し、その後、1級を取得するかどうか考えていた頃、脱サラして公認会計士の受験勉強をしていた旧友と再会します。話を聞くと面白そうなので、「やってみよう」と会計士受験を開始。仕事と受験の両立は非現実的と思い、4年間務めたタイミングで思い切って会社を退職。脱サラ受験生となりました。

「人とのご縁」が重なり税理士法人山田&パートナーズへ入社

グローバル企業の監査をへてロンドンで2年間の赴任

グローバル企業の監査をへてロンドンで2年間の赴任

論文式試験に合格した私は、2006年に有限責任あずさ監査法人へ入社。日本屈指のグローバル企業の監査に携わり、インチャージまでを経験しました。本体の監査チームは約20人、地域事務所の監査メンバーやIT専門家を含めると100人近くの人員が関与する大規模監査チームに所属しましたが、1つの会社を徹底的に突き詰める面白さがありました。当時は検討事項も多く、毎日遅くまで働いていた記憶があります。当該クライアント企業はSECにも登録していたので、米国会計基準(US GAAP)やUS-SOXにも触れることができました。

その後、2年間のロンドン赴任の機会にも恵まれました。現地の日系企業をサポートしつつ、監査部門のマネージャーとして監査業務にも従事。英語には最初から最後まで苦労しましたが、勢いと度胸でなんとかやり遂げました。駐在期間を通じて大事にしてきたのは人との繋がりで、クライアントや現地のスタッフ、日本からの他の駐在メンバーとも充実した時間を過ごすことができたことはとても良い思い出となっています。帰国してみると、結局よく覚えているのは仕事のことよりも、そうした方々とPubで談笑したり、テニスやゴルフを楽しんだりしたことなんですよね。今でもロンドン時代に仲良くなった方々とは趣味のテニスを時々一緒に楽しんでいます。

このほか、ロンドンでの生活では、異文化に触れることができたという点で、私にとって大きな財産となりました。特に感銘を受けたのは以下の2つで、1つは多様性を受け入れる文化、そしてもう1つは働き方に対する考え方です。ロンドンは世界中から人が集まる国際都市です。そのためか、日本人だからといって普段の生活からマイノリティであることを感じることもなく、外国人として特別視されることはありません。日本特有の同調圧力は存在せず、自分らしく生きることが当たり前に実践されているように感じました。また、日本もロンドンも監査の繁忙期は共に激務となりますが、そうした中でも仕事とプライベートのオンとオフの切り替えが徹底しており、両者を同じくらい大切にする文化を肌で感じることができました。私の目から見えるロンドンは、まさにダイバーシティとワークライフバランスの精神が根付いた懐の深い都市でした。

帰国後にフォレンジックのスペシャリストを志す

帰国後にフォレンジックのスペシャリストを志す

帰国して1年が経過した頃「自分は会計士としてどの分野でエキスパートを目指すべきか?」と将来のキャリアを意識し始め、最終的に選んだ道がフォレンジックでした。監査業務に従事してからは常に「リスク」を考えながら手続を構築してきましたが、特に不正リスクは自分自身の関心の高い領域であったこともあり、不正を軸とした業務を今後の自分のキャリアに加えていこうと思うようになりました。

2019年7月、私は株式会社KPMG FAS の不正調査・予防・危機対応に関連するサービスを提供するフォレンジック部門へ転籍します。KPMG FASに入社してすぐに関与した案件は、クライアントのあちこちの子会社で不正が明らかになっていくという大規模案件で、インタビューやデータ分析等を駆使して事実解明を行い、不正による会計上の影響額算定を行い、その後再発防止に対するアドバイスにも関与させていただきました。その後もコンスタントに不正調査の案件に関与し、現在に至るまで「閑散期」が訪れることがほとんどなく、継続して仕事に恵まれています。年間スケジュールに基づいてルーティンプロセスを踏む監査と異なり、不正調査はクライアントからのオファーが入るとともに急発進します。パズルを1から組み立てるようなもので、日々新しい発見が積み重なっていくのです。昨日までの調査指針が状況に応じて今日には変わっているようなことも多々あり、臨機応変な対応が求められます。特に上場企業における不正調査は、四半期報告書や有価証券報告書の開示期限までに調査を完了させる必要があるため、とにかく「限られた時間」の中で不正の事実確認や原因究明をしなければなりません。監査ではなかなかここまでの刺激的な毎日を送ることはできないため、KPMG FASに転籍して良かったと感じています。

監査業務との親和性が高いフォレンジック

監査業務との親和性が高いフォレンジック

私たちの調査は、オファーが入った直後より開始します。事前情報から調査の全体像を把握した上で、不正への関与が疑われる人物のメールデータの電子データをレビューする「デジタルフォレンジック」や会社のもつ大量のデータを利用した「データ分析」を行い、不正の痕跡をあぶり出します。その後、関係者へのインタビューや資料の閲覧、現地調査等を通じて事実関係を明らかにし、動機の解明を行っていくのです。不祥事が発覚した際に会社が「第三者委員会」や「社内調査委員会」を発足して調査を行う、といった報道を耳にすることがあるかと思いますが、まさに我々フォレンジックスペシャリストはこうした調査委員会の調査補助者として事実解明のサポートを行っています。

不正調査といっても会計不正調査や品質偽装に係る調査等、その調査対象は様々ですが、公認会計士が最も活躍できるのはやはり会計不正調査になります。監査経験がある方であればイメージしやすいと思いますが、監査人は常にリスクを考えて監査手続を構築し、リスクを抑えるための内部統制の整備状況や運用状況を確認し、必要な実証手続を実施していきます。一方、不正調査は不正の発覚が出発点になりますが、監査の思考プロセスとよく似ていて、不正の事実を解明していく中で、内部統制のどこに不備があり、その不備により発覚した不正以外に同様の不正が生じていないかどうか、という観点でも調査を進めます。そして最終的に会社の財務数値への影響額を算定することも我々に期待される役割となります。また、監査では内部統制のウォークスルー時や経営者インタビューでヒアリングする機会は数多くありますが、不正調査でも事実解明や情報整理のために行う関係者インタビューは非常に重要で、監査で培った「どんな相手でも臆することなく聴く」「限られた時間で必要な情報を収集する」といった姿勢やスキルをフォレンジックの仕事にそのまま活かすことができます。ですから、監査をしっかりと経験した人ならば、フォレンジックの仕事は違和感なく入れるのではないでしょうか。

不正調査の魅力は「不正の事実はどのようなものであったのか」「不正はなぜ発生したのか」について徹底的に解明することです。不正調査の専門家として、事実や原因の徹底解明に集中できる環境は仕事のやりがいにも繋がっていく部分かと思います。また、不正の発生は会社にとっても死活問題となることも多く、上場会社であれば上場廃止へと追い込まれることもあり得ます。そのため、会社も不正調査に対して真剣に向き合いますし、通常の監査と比べて熱量が全く異なります。調査期間中は非常に忙しくなりますが、しっかりと調査をやりきった後にクライアントから感謝されることも不正調査をやって良かったと感じる部分です。私が以前関与した案件では、経営陣の刷新が行われるほどの大規模な不正が発生した案件でしたが、調査終了後しばらくして会社の様子を伺ったところ、会社の雰囲気は調査前よりも明るくなり従業員が皆前向きに働いているという話を聞き、とても嬉しく思いました。不正調査により会社の膿を出し切ることで、会社が前に向かって踏み出すためのサポートができる、こうした点もフォレンジック業務の魅力の1つであると感じています。

プロフィール

トップランナー 公認会計士 vol.19 株式会社KPMG FAS 斎田 修 Osamu Saita

トップランナー 公認会計士 vol.19
株式会社KPMG FAS
斎田 修 Osamu Saita


早稲田大学法学部を卒業後、化学メーカーの営業職を経て2006年12月にあずさ監査法人へ入所。日本を代表する大規模クライアントを中心に監査業務に従事した後、2019年7月よりKPMG FASへ転籍。KPMG FASのフォレンジック部門で日々会社の不正と向き合っている。趣味は旅行、テニス、映画鑑賞。

TACマリッジコンシェルジュ
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