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トップランナー 公認会計士
上場企業からのスピンアウトを実行し
更なる企業価値の最大化に挑むCFO
取締役執行役員CFO 吉田 裕斗さん

数学“最底辺”のスポーツ少年が、逆算思考で会計士という『武器』を選んだ
名古屋生まれの私は小学生まではサッカー少年でした。小学校6年生の時に、日本代表が第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝し、野球に強く魅力を感じたため、中学入学と同時に野球へ転向します。4番・捕手として、運良く愛知県大会でも上位まで勝ち進むことができました。部活動はそれなりに充実していたものの、勉強面では明らかに落ちこぼれでした。特に数学に関しては全国最底辺クラスだったのです。中学3年生の頃には「このままでは人生がマズイ」と直感していました。
高校に進んだ私は、ゴールから逆算して考えることにしました。目指すゴールは「カッコイイ経営者」。では、どうしたらそこにたどり着けるのか?行き着いた答えが、公認会計士という職業でした。財務数値は、経営者が会社のストーリーを語るための“言葉”です。数学が苦手でも、努力さえすれば、その言葉で会社の未来を語り、人を動かせるようになる。そして会計の専門性は、社会に出たときの『武器』になります。
ゲームの「ドラゴンクエスト(ドラクエ)」に例えると、新卒社員は全員レベル1でスライムを倒すところから始めますが、資格という武器があれば最初から強い敵であるキラーマシンやキラーパンサーと戦える。経験値の溜まり方がまるで違うのです。ゴールが決まれば、今やるべきことも決まります。経営者への道筋として公認会計士を選んだ私は、まず高校2年生で簿記2級を取得。大学は、公認会計士を目指す学生への支援体制が充実している中央大学を選びました。

「日本で一番勉強している受験生」を自負した大学生の日々
中央大学入学と同時に、公認会計士資格の学校である学内の経理研究所へ所属しました。キャンパスは八王子にあり、勉強に集中するには最高の環境でした。朝の8時から夜11時まで机に向かい、1日3食を学食で済ませる日々を年中無休で送りました。中学・高校時代の勉強から、自分に地頭や勉強の才能がないことを理解していたので、とにかく勉強量で勝負したのです。当時は日本で一番勉強している受験生だと自負していました。
努力の甲斐あって、大学2年生で短答式試験、3年生で論文式試験に合格することができました。ただ、合格者の順位は上位3割くらい。これがとても悔しかったのを覚えています。経理研究所の同級生には、順位が二桁の合格者もいたからです。
外資系金融の監査で英語に揉まれたPwC時代
公認会計士試験に合格した私は、PwCあらた有限責任監査法人(現PwC Japan有限責任監査法人)から内定をいただきました。大学卒業までは学生インターンとして働き、2016年4月に正式に入社しています。担当したのは外資系金融機関のクライアントが中心。監査チームの2〜3割が外国人で、監査資料もランチの会話も英語で驚愕したのを鮮明に覚えています。
実は学生インターンの時点で「これはヤバい」と感じ、イギリスやカナダへ留学もしました。ところが英語は全然上達せず、入社後も監査チームの中でもがく日々。それでも毎日英語に浸かっているうちに、気づけばTOEICは900点を超えていました。やはり環境選びは大事ですね。支えてくれた外国人のメンバーには本当に感謝しています。
修了考査の勉強には、TACの講座を活用しました。選んだ決め手は、やはり大手ならではの安心感と実績です。

CFOを見据えて、楽天の経営企画へ
PwCでは、金融業界の会計監査を経験しながら、FAS業務やPEファンド関連の業務にも携わりました。監査部門に2年間、FAS部門に1年間在籍し、会計専門家としての基礎を固めるうちに「将来CFOとして活躍するために必要なスキル」が欲しくなりました。ここでも、ゴールから逆算する考え方は変わりません。CFOになるためには、会計だけでは不十分。経営企画や財務を含めた幅広い視点を養う必要があることを感じていました。
転職活動では、戦略立案の能力や経験を得るために、当初は戦略系コンサルティングファームを志望しました。しかし面接を受けるうちに、自分の知識や経験を活かせるフィールドではないと直感。あらためてCFOに求められるスキルセットと経験を俯瞰し、自分の『武器』である会計・ファイナンスを軸に、直接的に事業会社での経営企画の経験を得ることを考えました。
もちろん、経営企画で通用せず、キャリアが停滞するリスクもありました。ですが、公認会計士という資格こそが最大のリスクヘッジです。ドラクエでいえば、手強いモンスターにやられても復活できる『教会』があるような安心感。若手の公認会計士が冒険できる理由は、ここにあると思っています。
楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)の経営企画に着任した私は、中期経営計画の立案から事業再構築、財務、法務まで、コーポレート業務に幅広く関わることができました。特に力を注いだのが事業再構築です。事業ポートフォリオを分析してCxOへ提案・実行支援を行うほか、コロナ禍に伴う緊縮対応にも取り組みました。経営陣の意思決定を間近で支えた経験を通じて、大きく成長できたと思います。また、在外子会社に対する投資・貸付業務を通じて、財務の視点を養うことができました。3年間で経営企画を一巡した私は、次は経営陣として会社を動かしたいという気持ちが強くなりました。

スピンアウトまで猶予2か月。ゼロから管理部門を立ち上げる
次の仕事をCFOに定めた私は、転職エージェントを介して20社を超える企業の経営者・役員とお会いし、お話を伺うことから始めました。その過程で、面接で出会ったのが現職のCEOである齊藤秀さんです。当時のSIGNATEは上場企業の子会社で、経営陣が投資家の支援を受けて親会社から株式を買い取り、スピンアウトする(いわゆるMBO)準備を進めていました。スピンアウトにあたっては、事業運営に必要な資金を確保するとともに、親会社にしかない管理部門を自力で立ち上げる必要がありました。
面接で齊藤さんから、スピンアウトに向けてfreee会計やSmartHRの導入検討まで自ら進めていると聞いたときのことは、今でも覚えています。経営者であり、優秀なデータサイエンティストでもある齊藤さんのリソースを管理部門に分散させてはいけない。「自分が助けなきゃ」という、謎の使命感が湧いてきました。齊藤さんの人間的な魅力、能力の高さ、そして成長を続けようとする姿が決断を後押ししました。出会ってから約5年が経ちますが、今でも心から尊敬している経営者です。
2022年2月、私はSIGNATEに入社しました。スピンアウトの予定日は、そのわずか2か月後。基本合意こそできていたものの、出資金額も契約関連も未定の状態でした。
立ちはだかった壁は3つありました。1つ目は事業計画です。まだ会社のことを十分に理解できていない中、投資家からは入社2週間で事業計画の立案と提示を求められました。ここでつまずけば、入社早々CFO失格の烙印を押されかねません。短期間で結果を出すしかありませんでした。2つ目は法務手続き。スピンアウトには法的な手続きが多く、投資家や親会社との調整も多岐にわたりました。そして3つ目が、資金調達額の交渉です。当時のSIGNATEは赤字で、可能な限りランウェイ(手元資金で事業を続けられる期間)を伸ばす必要がありました。何とかスピンアウトを実現できましたが、心身ともにハードな2か月だったと記憶しています。
息つく間もなく、スピンアウト直後から管理部門を機能させなければなりませんでした。経理、財務、労務、法務といったバックオフィスを、一から立ち上げる必要があったのです。入社間もなく頼りないリーダーだったと思いますが、自律的かつ献身的に支えてくれたメンバーには感謝しかありません。メンバーのおかげで、大きな問題なく管理部門を立ち上げることができました。

IPOという“大ボス”に挑むCFOの仕事
スピンアウト時は社員20名ほどだった当社も、今では100名超の会社へと成長しました。当社は「技術で人の可能性を解き放ち、すべての組織に革新をもたらす」をミッションに掲げる、AIソリューションカンパニーです。上場・大手企業を中心に取引実績は1,600社にのぼり、官公庁向けの支援にも長年携わっています。
中核となるのは、特許技術を活用した業務棚卸AIエージェント「SIGNATE WorkAI」です。従業員1,000名超の企業の場合、外部コンサルタントに依頼すれば6か月以上かかる全社の業務棚卸を約1週間で終え、AIを適用すべき業務とその経済効果を特定します。昨年リリースしたプロダクトですが、導入実績はすでに100社を超えました。そこからAI実装やAIエージェントの開発、「SIGNATE Cloud」によるAI人材の育成まで、AI変革を一気通貫で支援しています。
CFOとしての私のミッションは、将来キャッシュフローの最大化を通じて企業価値を高めることです。担当領域は経理、財務、法務、IR、経営企画、そしてIPO準備と幅広く、スピンアウト後は管理部門の立ち上げから、上場会社水準への内部管理体制の引き上げまでを担ってきました。資金面では、エクイティの調達に加え、スピンアウト後は利益改善を進めたうえで、営業キャッシュフローと銀行借入によって成長資金を確保し、投資を実行してきました。
ドラクエに例えるなら、IPOという“大ボス”に向けて、資金調達や管理部門の構築といった“中ボス”を一つずつ攻略している最中です。AIで日本の労働生産性を高めるという会社のミッションを、数字の面から支え続けていきたいと考えています。
CFOというポジションの魅力は、公認会計士としての専門性と、経営当事者としての視点の両輪で会社の成長に向き合えることです。経営陣の一角としてはまだ修行中で、偉そうに語れる身分ではありません。それでも、自分の判断や数字が会社経営に反映され、意思決定の当事者になれるやり甲斐は何物にも代えがたいです。経営陣はドラクエのパーティ編成と同じで、互いの強み・弱みを補完し合っています。私が担うのは、会計・ファイナンスの専門家としての役割です。SIGNATEの役員はスペシャリスト集団です。その仲間が会社や組織の成長で次々レベルアップしていく中、置いていかれないよう自分もレベル上げを続ける必要があると実感しています。

若手会計士へ:「武器」と「教会」があるから冒険できる
若手公認会計士の皆さんには、専門性を活かして、いろいろなことに挑戦してみてほしいと思います。公認会計士という資格は、最初から強い敵と戦える『武器』であり、やられても復活できる『教会』でもあります。だからこそ、背伸びをした冒険ができる。
中学の倫理の授業で出会った「狭い門から入れ。滅びに至る門は大きく、その道は広い」という新約聖書の一節が今も私の座右の銘です。楽な道より、あえて厳しい道を選ぶ。やって後悔することはなくても、やらなかった後悔はずっと残ると思うのです。
スタートアップで活躍したい方、ファイナンスのスペシャリストになりたい方など、私でよければ、いつでも相談に乗ります。LinkedInでお気軽にご連絡ください。PwCや楽天では多くの人にお世話になりました。これからは若い人に少しずつ恩返しをしながら、SIGNATEをより良い会社、より大きな会社にしていきたいと思っています。
プロフィール
トップランナー 公認会計士 vol.37
吉田 裕斗 Yuto Yoshida
株式会社SIGNATE 取締役執行役員CFO。中央大学商学部在学中に公認会計士試験に合格。2016年PwCあらた有限責任監査法人(現PwC Japan)入所。2019年楽天株式会社(現楽天グループ)で経営企画・財務を担当。2022年SIGNATEに参画し、上場企業からのスピンアウトを実行。現在は経理・財務・法務・経営企画・IR・IPO準備を統括。
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