税理士試験は国内の中でも非常に難易度の高い難関資格です。簿記論、財務諸表論を取得して、税法科目(法人税法、所得税法、消費税法または酒税法、相続税法、国税徴収法、住民税または事業税、固定資産税)を三科目取得する必要があり、そのうち、法人税法と所得税法はどちらか一科目取得する必要があります。一科目ずつ積み上げて科目合格することが可能で、一度合格したら生涯有効になるため、数年かけて合格を目指す方が多いです。
また、令和5年度の税理士試験から、会計学に関して誰でも受験することができるようになったため、以前よりも多くの人が挑戦できる試験になっています。受験資格が緩和されたことで、実際に令和5年度の受験申込者は、簿記論・財務諸表論ともに前年の120%超となりました。5科目取得するには、一般的に学習時間が3000時間ほど必要と言われている税理士試験ですが、実際には、5科目合格する前段階で実務を経験しつつ税理士試験の学習を並行して就業する人が多くいます。
本記事では、これから税理士業界に就職しようと考えている方を対象に、税理士として活躍していくためのキャリアパスを具体的に紹介していきます。
独立開業税理士のキャリアパス
独立開業税理士とは、自分が経営者となって事務所を開業する税理士のことです。収入面では、安定しにくい面もありますが、事務所が軌道に乗った際には、事務所の規模を拡大して、収入面で大幅なUPも見込めることや、自由に裁量をもって働くことができる点は大きなメリットです。ほかにも、定年を気にせずに働くことができるため、生涯収入では大きく勤務税理士とは差が出てくることもあります。
独立開業するには、税理士登録をするために、租税または会計に関する事務のうち、所定の業務に従事した経験を通算2年以上積まなければいけません。そのため、最初は税理士法人や、会計事務所に勤めつつ、税理士試験合格を目指す人が多いです。
開業後には、一からクライアントを探して獲得していかなければなりません。そのため、顧客開拓のため営業をしていく期間があり、その間は、安定した収入を見込めないので、ある程度の生活費の貯蓄は必要になります。
また、自宅などで開業し「一人事務所」で働く場合、売上高は1500万円~2000万円が限界といわれています。開拓後は、自分の志向によって、事務所を拡大するのか、従業員を雇うのか、新しい領域に挑戦してサービスを提供していくのかなど、裁量をもって好きな道に進むことができます。また、クライアントを抱えすぎないように顧問料が高いクライアントや、一緒に仕事がしやすいクライアントなどを優先して、単価の低いクライアントとは距離を置いていくなど柔軟に対応していくこともできます。
独立開業すれば、税理士としてだけではなく、経営者として様々な決断をしていかなければいけませんし、従業員を雇えば責任も大きくなります。税務・会計業務以外の面での業務も発生します。いずれにせよ、独立開業する税理士の多くは10年程度は税理士法人・会計事務所で経験を積んだ人がほとんどです。
独立開業税理士のまとめ
・仕事の量や、顧客層を自分でコンロールして業務を行うことができる
・一人事務所の場合、売上高は1000万円~2000万円が目安
・税務・会計業務面以外での業務が発生する
・顧客を獲得するための営業活動をする必要がある
勤務税理士(税理士法人・会計事務所)のキャリアパス
勤務税理士とは、会計事務所や、税理士法人に勤める税理士のことです。税理士を目指す人が最初に就職先として選択することが多く、税理士登録の実務要件を満たすこともできるため、大半の税理士がキャリアの中で一度は会計事務所や税理士法人で働いて経験を積んでいきます。
勤務税理士としてキャリアを積む人もいますし、独立開業税理士として働くために退職する人もいますので、勤務年数はまちまちです。税理士法人や会計事務所では、クライアントの規模感や、業種・業界、取り扱う税務の種類など特徴がそれぞれあり、自分が今後何を専門として知識を習得し、経験を積みたいかを考えて就職先を決めるといいかと思います。
上場会社・上場関連子会社など大手企業を担当するためには、それなりの規模(従業員50人以上)の税理士法人に就職する必要があります。また、誰もが知るグローバル企業の税務の多くはBIG4税理士法人が担い手となっているケースがほとんどです。
BIG4税理士法人、国内大手税理士法人(税理士法人山田&パートナーズなど)では、M&Aや、税務コンサルティング業務、株式上場支援、海外進出支援、国際税務など幅広いサービスを部門別や複数のグループ企業ごとに展開しているため、自分がスペシャリストなりたい分野をより深めることもできます。
小規模な事務所の主なクライアントは中小・零細企業であり、近隣の個人商店や、不動産オーナーも含まれます。この場合の多くの業務は、記帳代行や試算表の作成、税務申告書の作成業務が中心です。また、事務所によっては、クライアント先の給与計算や、年末調整なども行う場合もあります。一般的には従業員一人当たり20社前後を担当することになります。クライアントに定期的に訪問して、中小企業の社長や、役員の経営陣と直接お話する機会もあり、良好なコミュニケーションを取り、税務面での相談や、経営に関する相談も受けることがあり、時には、経営者が孤独なこともあるので、話し相手になることもあります。今後、独立して自分で開業したい人などは、中小企業のクライアントが将来の顧客層になりうるので、経験を積む意味で働く人もいます。
勤務税理士(税理士法人・会計事務所)のまとめ
・グローバル企業の税務の多くはBIG4税理士法人(EY税理士法人、KPMG税理士法人、デロイト トーマツ税理士法人、PwC税理士法人)が担当している。
・大手企業を含めた幅広い案件を経験するならば、大手税理士法人(税理士法人山田&パートナーズ、辻本郷税理士法人、AGS税理士法人など)や準大手税理士法人・中堅税理士法人(あいわ税理士法人、クリフィックス税理士法人など)へ就職するのがおすすめ。
・中小零細企業(オーナー企業)に特化している準大手税理士法人(アタックス税理士法人、TOMA税理士法人など)で社長へ直接コンサルティングをする税理士を目指すこともできる。
・ランドマーク税理士法人、税理士法人レガシィなど資産税(相続税)に強みを持った特化型税理士法人へ就職することもキャリアパスの選択肢の1つ。
※進路に迷ったらTACキャリアエージェントのコンサルタントに相談することをお勧めします。
企業内税理士のキャリアパス
税理士の中には、一般事業会社で働く人もいます。企業内税理士として働く場合でも、基本的には、自社の税務書類の作成、税務申告の手続き、経営層に対して会計・税務面の視点でのアドバイスなどが業務内容になります。
会計や税務面において、経営層からの期待は大きく、アドバイスを求められることが多いです。外部の税理士に業務委託する場合よりも、自社の事業内容や、内部事情に精通している企業内税理士が税務業務を行うことで、機密情報や経営方針により深い理解度で踏み込んだアドバイスを行うことができます。
他にも自社の企業内税理士を活用するメリットとしては、業務の迅速性の向上や、機密情報の安全性、自社内にノウハウの蓄積もすることできることや、海外子会社との税務対応や、連結処理、M&Aが発生する際は、外部委託するよりもコスト削減につながる可能性があることが挙げられます。
企業内税理士は、財務系、もしくは管理部門全体の責任者や、CFOなどの経営層にキャリアアップできる可能性もあります。税理士に経営コンサルタントの役割を期待する面もあり、事業再生やM&Aなどへのアドバイスも求められるケースがあります。また、より自社内のセンシティブな事情を把握したうえで、助言を求められるので、時には、助言によって会社の経営方針を左右する可能性もあります。
企業内税理士として働くメリットとしては、独立開業した税理士より安定した収入を得られることで、ワークライフバランスが保ちやすい点です。企業によっては、税理士資格手当などもある可能性もあり、待遇面でプラスになるでしょう。昨今のグローバル企業には「税務部」または「税務課」が部署として確立されつつあり、そうした企業が自社の企業価値を高めているのも事実です。
企業内税理士のまとめ
・経営層に税務・会計、時には事業再生やM&Aなどに関する助言を期待される
・グローバル企業の税務を大手税理士法人の担当者とともに担当する
・企業価値にダイレクトに貢献できる仕事
税務業務の基本的な流れ
法人税務・個人所得税務
法人税務は税理士法人・会計事務所で大きなウェイトを占める部分になります。すべての法人は、各事業年度の決算をもとに法人税を納めなければいけません。そのためには日々クライアントとの取引や、売上、経費などを記帳して、帳簿を作成していき、月次決算や、年次決算をしていきます。年次決算が終わったら、決算月の2か月以内までに、税務署に税務申告書を提出します。
具体的な法人税務の仕事内容としては、会計ソフトなどを使用して日々の取引を記録していく記帳代行業務から、記録した会計帳簿をもとに行う月次決算業務があります。月次決算を積み上げて、年度末には年次決算を行い、その2か月後に税務申告書を作成して税務書に申告を行う義務があります。本来は会社が自社で行う業務ですが、税務のスペシャリストである税理士に依頼して、自社の経理業務も任せることが多くあります。
繁忙期については、年末調整が発生する時期と、日本の企業は3月決算が多いため、決算業務、税務申告業務が重なり、また、所得税の確定申告期限は3月15日までとなっているため、12月から5月までが繁忙期になるケースが多くあります。
企業の毎月・毎年のお金の流れを把握しているため、会計処理のアドバイスだけでなく、経営のアドバイスも行い、クライアント目線に立って貢献していく意識があると、より業務の幅が広がるかと思います。
資産税務
基本的に国税である相続税・贈与税・譲渡所得税の3つに対応した税務業務を行います。
申告・納税の義務があるため、相続税であれば亡くなってから10ヶ月以内に、贈与税や譲渡所得税であれば翌年の3月15日までに、納税者から依頼を受けた税理士が申告書を作成し税務署に提出します。これが、税務申告の中心業務となります。
ただし、相続税の申告は、法定相続人の確定や遺産の分割、土地や非上場株式などの相続税評価額の算出などやるべきことが山積みされている上に、申告書を提出した後で税務調査が行われた場合は、その立ち会いも行わなければなりません。
資産税専門の税理士は事前の節税対策も行います。資産税は相続の金額によって高額になることがあり、事前の準備次第で納税額は大きく変わります。事前の節税対策には様々な方法があり、生前贈与で相続資産を減らしたり、現預金を活用して、不動産投資を行ったり、一時払いで生命保険に加入するといった方法があります。
相続案件は突発的に発生する業務に対してどのような状況でも臨機応変な対応が求められます。身内の人がなくなっている人も当然いますし、相続に関する業務は非常にデリケートな分野です。最大限配慮をして、言葉を選びながら相手の信頼を得られるようにヒアリングしていく必要があります。時には、クライアントが言いにくいことを聞いていかなければいけない場面もあり、より深いコミュニケーション力を求められます。
国際税務
国境をまたぐ事業活動や組織再編に関連して発生する課税関係への対応を総称するものです。法人税法などとは異なり、法律に定義のあるものではありません。国内外企業間の事業形態が日々変化していくなか、国際税務に関連する法令も日々新規制定・改正されており、高度で複雑な分野となっています。
日系企業が海外進出する際や、外資系企業が海外から日本へ進出する際に付随する税務に関する問題に対してサービスを提供することになります。国際税務は、税理士試験の科目であるわけでもなく、業務を通して実践の経験を積んで専門性を高めていきます。
具体的な業務内容としては、例えば、組織再編をはじめとするクロスボーダーM&Aに伴い海外への投資決定を行うにあたり、現地での税務や会計の適正性・妥当性を意識するかと思いますが、同時に日本側のタックスヘイブン対策税制への対応が必要か、検討が求められます。そこに税理士が入って後々に追徴課税が発生するリスクを減らすことや、M&Aによりグループとなった海外の関係会社とグループ内取引が発生する場合や、既存製品の製造を新たに行わせる場合など、商流や製造機能の見直しを行うような時には、PMIの一環として移転価格税制への対応も必要になってきます。
国際税務では、日本の税制だけでなく、他国とどういう租税条約を結んでいるか、タックスヘイブン対策税制、外国税額控除、移転価格税制など様々な税制に対して対応することが求められます。
税理士のキャリアパスは千差万別
税理士のキャリアパスは最初の勤務先や転職先によって大きく左右されると言えるでしょう。将来独立開業を志している方であっても、昔のように記帳代行だけでは収入を得ることは難しい時代。何かしら自分の強みを身につけることが重要といえます。
大手税理士法人・中堅税理士法人でマネージャー職(入社5年目から10年目)で年収1000万円以上になることも珍しくありませんし、パートナーに昇進すれば年収2000万円以上を目指すこともできます。
税理士のキャリアパスは千差万別。「やりたいことが見つからない」「業務の特徴や適性がわからない」という方は、お気軽にTACキャリアエージェントのコンサルタントへご相談ください。
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